僕たちが「正解」を求めるようになったのはいつからだろうか?
僕たちが子供の時、問題があればそれと対になるように正解があった。だから、全ての問題には答えがあると信じ込んでいた。
正解主義。問題には唯一の正解が存在し、それを正とする価値観だ。正解と違った結論を出すと、それは間違いであり、悪だ。
この正解を導き出せる力こそ、問題を処理する力、すなわち情報処理力だ。学生時代まではこの能力の高さが物を言う。
だが、大人になって社会に出てみたらどうだろう?
ほとんどの問題には答えが用意されていない。誰にも正解がわからない。それなのに絶対に正解があると信じ、そうでなければダメだと感じてしまう。
答えのない問題に正解を求めてはならない。もともと正解など無いからだ。
こういった問題には自分も他人も納得できる結論、すなわち納得解で答える。
この納得解を導き出せる力は情報編集力だ。つまり、今ある情報をつなげる力だ。
このつなげる力について、記されているのが藤原和博著の『つなげる力―和田中の1000日 (文春文庫)』だ。
この本のテーマは「つなげること」である。
現代社会のさまざまな問題は、「つなげる」ことでドラマチックに解決していく。「つなげる」ことでまったく新しい地平がみえてくる。
日本人は正解依存症である
面白い事実がある。日本とアメリカの高校生学力テストの結果だ。
アメリカの正答率は20%、誤答率は80%だった。
一方日本は、正答率が40%、誤答率が20%だった。残りの40%はどこに消えたのだろうか?
無回答だ。日本人は自分がわからない問題について答えたがらない。
世界の中でも日本人は特に間違えることを恐れる。間違えて良かった思いをしたことがないからだ。時には怪我の功名というものがあったかもしれないが、それでも褒められたことは無いだろう。
特に、みんなと一緒であることに重きを置いている日本人は1人だけ違うことを嫌う。更にはみんなと一緒だと安心するし、正しいと思う。
こういった文化の中で、唯一の正解が無い上に、一人一人違う答えが出てくる問題を解くことは非常に苦しいだろう。
日本は「正解」の無い時代を迎えた
しかしながら、みんなと一緒のことをやっていれば良かった時代は20世紀で終わってしまった。21世紀になって情報処理力が威力を発揮した成長社会は終わり、日本は成熟社会を迎えた。
これからは情報編集力が威力を発揮する。答えのない問題に対して納得できる解を見つける力だ。
『つなげる力』には著者が実際に取り組んだ「つなげる事例」がたくさん記されている。この本を通して事例から学習し、応用できれば、この本は活きると思う。
つなげる力によって見つけた納得解は必ずしも最適解ではない。実際にやってみて初めてわかることや課題が見えてくるからだ。
だから最初から完璧な答えを出そうとしてはいけない。最初に出した答えを、何度も何度も修正していくことでより良い答えに辿り着く。
最初に「正解」が用意できる時代は終わった。方向が見定められたらまず始めてみて、関係者のニーズや技術の変化を取り入れながら、無限に「修正」していくのが正しいアプローチなのである。
情報編集力をつけるための4つのテクニック
ではこの情報編集力を身につけるためにはどうすればいいのだろうか?
その4つの方法を、本書より紹介しよう。
作文は会話から始める
作文は、起こったことを淡々と並べていく文章になりやすい。これではできあがった文章が無機質な単語の羅列になってしまう。これでは面白い文章にはならない。
僕は、面白い文章とは読むだけで感情の動きがわかる文章だと思う。言語の中に非言語の情報を感じ取れると、そこにコミュニケーションを感じ、自分の心や感情が動く。
そこで、文章を会話対や心のなかのセリフ(心中文)から始めて見る。すると、それだけで文章が生き生きしてくる。ストーリーが出来上がるからだ。人は事実そのものには感動しない。その背景や物語に感動する。
会話対から書き始めることで、脳の働きが単に事実を書くという情報処理から情報編集に変わる。そして出来上がった文章は、人に読ませる文章になっているだろう。
問題を図で整理する
本来は、複雑で難しい問題をわかりやすい図で表現することを「情報編集力」と呼ぶ。
文字通り、情報を図に編集する力だ。
例えば、情報編集力が今後必要になるという問題を図で表現すると次のようになる。
画像:【印象づけには名刺よりつかみ!】“情報編集力”で人生を豊かに!教育改革実践家・藤原和博氏(後編) - リクナビNEXTジャーナルこれは僕も非常にわかりやすい図だと思う。特に本書を読まなくても言いたいことがわかる。こんな風にわかりやすく伝えることができたら、きっと自分を理解してくれる人も増えるだろう。
「情報編集力」は「つなげる力」なのだから、「引き寄せる魅力」にもなり、したがって「味方をふやす技術」に通じるというわけだ。つなげる力―和田中の1000日 (文春文庫)
テレビ・パソコン・ケータイの時間を制限する
特に子どもに言えることだが、テレビやケータイは「集中力」の成長を妨げるリスクがある。逆に、これらを使う時間を制限できれば、それは人生をマネジメントする力にもなっていく。
その代わりによく遊ぶことだ。よく遊ぶ人ほど「つなげる力」が強いと思う。遊びによって想像力が養われる。このイメージする力こそ情報編集力になる。
確かに、遊びを真剣にやっていたらそれが仕事になっていた、というのは楽しんで仕事をし、成功している人の典型パターンだ。
僕たち大人にとっても、遊ぶことは大切なのかもしれない。
失敗に対して寛容になる
人は失敗から学んで成長する。初めてやったことが成功するなんてことはほとんどなく、たいていは何をやっても失敗する。人間なんて誰しもそんなもんだ。
だが、失敗することで良い思いをしてこなかった僕たちは、失敗することを恐れる。そして何もしない。これでは成長のしようがない。
納得解を導き出すことが必要とされる現代において、失敗を恐れて何もできないことは致命的だ。何より、情報編集力は試行錯誤によって磨かれる。
失敗を恐れるよりも、まずやってみる勇気を大切にしよう。失敗して失うことなどないのだから。
つなげる力で納得のいく人生を
21世紀になって日本は成熟社会を迎えた。
みんなと同じことをするのが正解だった時代は終わり、一人一人が納得できる答えを自分で出して行かなければならない時代になった。
これは仕事に限らず、遊び、恋愛、そして生き方そのものに言えることだ。
よりより人生を送るためには情報編集力が必要だ。今自分の周りにある情報をいかにつなげられるか、そこに鍵がある。
『つなげる力』はそのヒントをあなたに伝えてくれるはずだ。