2016年10月7日。1つのニュースが報道され、翌日の日本はその話題で持ちきりでした。
それがこちら、電通の女性新入社員、高橋まつりさんが自殺したことは労災だと三田労基署が認定したニュースです。
ニュースの報道が2016年10月7日、彼女が亡くなったのが2015年12月25日。約10ヶ月もの間、このことを知らずに自分が生きていたことに恐怖すら覚えます。
このニュースを受けて、巷では「死ぬぐらいなら辞めればよかった」だの「残業130時間程度で死ぬのはうんたらかんたら」だの「東大卒でかわいいのにもったいない」だの。
そんな何の生産性もない感想は置いといて、なぜ彼女は最期まで会社を辞められなかったのか?なぜ転職といった他の選択肢を取れなかったのか?を考えてみます。そしてそれを踏まえて、今生きている我々はどうすればいいのか?を1つの意見としてお話したいと思います。
彼女の置かれていた境遇
まず彼女が当時どんな生活を送っていて、どんな境遇に置かれていたのか。事実を確認します。
と言っても一個人が事実を正確に確かめる術はありません。そこで、彼女のツイートを事実だと仮定して話を進めます。
彼女のツイートはこちらの記事にまとめられています。
さて、ツイートから彼女の境遇をまとめたものがこちら。
- 労働時間は1日20時間程度
- 土日も出勤
- 残業代の不払い及び残業時間の過小評価
- パワハラ及びセクハラ
この内容を形容するのは上記を始めとする他の記事やコメントなどにお任せします。
で、ここから考えると彼女の状態は次のようだったと推測できます。
- 自由時間は1日4時間(通勤時間含む)
- 精神状態:鬱
この状態で彼女に一体何ができたでしょうか?
「辞める」ことは本当にできたか?
おそらく一番手っ取り早くこの状況を変えられる選択肢が「退職」でした。理論上では。
でもね、現実問題できないと思います。他人事な上に理屈では可能だから簡単に「辞めれば」と言えちゃうんです。
できない理由①「お金の問題」
入社1年目とは言え、ここまで労働時間が長いと金なんか使ってる時間は無いと思うので貯金はみるみる貯まっていったと思います。住居も社宅だったそうなので固定費も少ないはずです。
しかし悲しいかな、サラリーマンは辞めた瞬間収入がストップします。彼女は働きながら転職して収入をつなぐことも無理だったでしょう。さらに、いかに社会保障の手厚いサラリーマンとは言え、彼女の場合はほとんど効果が見込めません。
その理由を説明します。
無力な雇用保険制度
日本には離職し、失業した場合には基本手当が支給される雇用保険制度があります。この基本手当には待機期間が7日間あります。さらに自己都合退職の場合には、これに加えてさらに1ヶ月~3ヶ月間は支給されません。
と、ここまで聞けば「それぐらい耐えれるっしょ」と思われるかもしれません。
いいですか?基本手当の要件には「離職の日以前2年間に雇用保険の被保険者期間が通算12ヶ月以上あること」があります。
彼女が亡くなったのは入社1年目の12月25日です。被保険者期間はわずかに8ヶ月です。
高橋まつりさんは基本手当を受け取ることができません。
休業補償給付も怪しい
最期の頼みの綱が労災保険制度です。この制度でもらえる保険給付の1つに休業補償給付があります。
これは業務上の負傷または疾病による療養のため休業し、賃金を受けない日が4日以上に及ぶ場合、休業第4日から休日1日につき給付基礎日額の60%相当額の給付が行われます。
自己都合で退職したとしても、引続き給付は行われます。
ちなみに窓口は労働基準監督署です。労働基準監督署の相談窓口は午前9時から午後5時までです。電話受付もありますが土・日・祝日・年末年始を除きます。
彼女の境遇で行けますか??
少なくとも僕は無理です。そんな時間があったら寝たいです。というか帰宅後は一刻も早く寝たいと思います。
そもそも社会保険を知らなかった確率が高い
ここまでつらつらと社会保険の選択肢について語りましたが、こんなことを知ってる新入社員がいますか??
僕は見たことがありません。
そして知らなければそういう選択肢があることにすら気づかないでしょう。
できない理由②「人間関係」
要は世間体です。いくら東大卒とは言え、新卒で入社した大企業を「激務に耐えれませんでした」という理由で退職してしまったら……
ここまでヒエラルキーのトップの座を築いてきただけに、こんな悪材料を作ってしまったら株価大暴落です。
人の評価は期待値と実績のギャップで決まると言っても過言ではありません。
仮にうまく退職できたとしても、その後の人生の不安はもちろん、周りからの視線を考えると足がすくみます。
当時まだ24歳の女の子です。周りからどう思われるか気になるなんて当たり前じゃないですか。
もっと言えば、大抵の人は自分のことばっかり考えてます。他人にどう思われているのか不安を感じている人が大半です。
人の目を見て喋る時に緊張するのは、自分がどう思われているか考えている証拠です。
できない理由③「誰しも持っている人間の性質」
人は習慣の動物です。保守的で変化や挑戦を恐れる生き物です。
本能的にそうできているのです。だって動物がリスクを取ったら命にかかわるから。人間は充分安全な環境で生きているから生活を変えるようなリスクを取っても死なないんですけどね。
どれだけ口では「辞めたい」「やりたい」「変わりたい」と言っていても実際に行動に移せない人が大半なのはそういう理由です。
どうすれば自殺ではなく退職の道を取れたか?
僕が思う、彼女が退職できなかった理由は上に全て挙げました。
僕は、彼女が自殺した理由をまとめると「将来に対する不安」に集約されると思います。将来のことを考えているのに今死ぬってなんか矛盾してますね。でも人の心ってそんなもんだと思います。理屈じゃなくて感情で動いているから。
では彼女はどうすれば、どうなっていれば自殺ではなく「辞める」という選択肢を取れたのでしょうか?
極論を言います。
他に給与以上の収入源があって、それを認めてくれる人がいれば、彼女は辞められたと思います。
もちろん彼女の境遇を考えれば他の収入源を作ることは物理的にも精神的にも不可能です。でも例えば激務が始まる本採用になる前であったり、学生時代であったりした時に、わずかでも収入源を持っていたら?
就業規則の問題もあるでしょうが、最悪の事態は避けれたかもしれません。それは電通にとってもです。
しかしこれも他人事で、後になった今だから言えることです。我ながら「何言ってんだこいつ?」と思います。でも僕は「自殺するぐらいならこうしとけば良かったのに」と言いたい訳ではありません。
僕はこう言いたいのです。今を生きている我々は、このニュースから「もしかしたら自分も彼女と同じ境遇に置かれるかもしれない」と考え、今のうちに対策を立てる必要があるんじゃないか?と。
サラリーマンは安全・安定かもしれないがメチャクチャ弱い
先に話したように、サラリーマンは社会保障が厚いため、最低限の安全や安定は保障されています。そういった意味ではサラリーマンは最強です。
かと言って、収入源をたった1つの給与所得に頼り切るのはとても危険です。最悪自殺の可能性があるほど危険です。
だから何でもいいです。ほんのわずかでもいいです。転売でもアフィリエイトでも株でもFXでも不動産でもいい。就業規則に気を付けながらも他の収入源を持ってください。他の収入源を作ろうとするとそこに仲間ができます。人間関係が生まれます。
そしてもしも死にたくなるほどサラリーマンを辞めたくなった時、あなたは会社に対して「別に辞めてもいい」と、強気な姿勢が取れます。
まとめ
今回のような労使に関するニュースが報道されると、「企業の文化や風土が悪い」「企業はルールを守れ」「国がなんとかしろ」といった様な発言をよく見かけます。自分は何もしないのに、国や企業に対して「変われ」と言っているようです。他力本願の声にしか聞こえません。
「自分はどうするの?」と、僕は自分に対しても言いたいです。
むしろ自力で稼げる人が増えると、企業も従業員を無理に扱えないと思いますよ。だってそんなことをしたら簡単に辞められちゃいますから。
ブラック企業の存在を助長しているのは、辞めたくても辞められないサラリーマンかもしれませんね。
最後に僕の好きな言葉の1つを。
同じことを繰り返しながら違う結果を望むこと、それを狂気という。